他者志向のギバー

「情けは人のためならず」

よく聞くことわざです。
人に情けをかけると巡り巡って自分にも返ってくる、という意味ですね。
情けをかけるというのは、困っている人を助ける、人に与える、ということ。
ギブ・アンド・テイクでいえば、ギブの行為です。
普通、良いことをすると気持ちがいいものです。
困っている人を助けてあげられた、ささやかな募金をした、そんなことで自分も満たされた気分になります。
逆に人から親切にされた、明るく声をかけてもらった、そんなときもやはり嬉しさを感じます。
お互いに良いことをし合えば社会は良くなるんでしょうが、なかなかそうはいきません。
人の心の中には警戒心やら不安やらがあって、
「親切にすると自分が損をするのではないか?」
「親切にされても、どこかに裏があるのではないか?」
などと考え、自分の中のギバーを引っ込めて、自分の利益を最大化しようとするテイカーを出してしまいがちです。
人に与えてばかりだと自分が損をするという心配が先立つからでしょう。
心理学者アダム・グラントの『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』という本は、それが杞憂だということを示してくれる本で、おススメです。

ギバーは成功しないお人好し?

人には3つのタイプがあるということです。
ギバー(Giver)は、人に惜しみなく与える人。思いやりがあり、人を疑わず、相手の利益のためなら自分の利益を犠牲にすることもいとわないような人です。
テイカー(Taker)は、真っ先に自分の利益を優先させる人。
マッチャ―(Matcher)は、損得のバランスを考える人。受け取った分返そうというような人です。
実際には、すべての人の中に3つの要素があるものの、その強さが違うのかな?という気はしますが…。

ともかく、この本に紹介されている研究結果によると

  • 最も生産性が低く効率の悪いエンジニアはギバー。
  • ベルギーの医学生600名で成績の最も低い学生が、「人助けが好きだ」「人が何を必要としているか常に思いやる」というギバー特有の主張に関して、得点が非常に高かった。
  • 販売員ではテイカーの年間売り上げはギバーの2.5倍。
  • ギバーはテイカーに比べて収入が平均14%低く、犯罪の被害者になるリスクは2倍、人への影響力も22%劣ることがわかっている。

ギバーのお人好しぶりが良い結果に結びつかない例がまず挙がっています。
これではわざわざ損をするようなギバーにはなりたくないという気にもなりそうですが、実はさらに興味深い結果が紹介されています。

成功を収めるのもギバー

ギバーは成功という尺度の底辺を占めるだけでなく、上位も占めているというのです。
曰く…

  • 最も生産性の高いエンジニアはギバー。
  • ベルギーの医学生600名のうち最も成績の良い学生はギバー。医学部全体ではギバーの成績は11%も高い。
  • 最も売上の多い販売員はギバーで、テイカーやマッチャ―より平均50%年収が多かった。

何をもって成功とするかは観点の違いがあると思いますが、ここではわかりやすい成績のようなものを成功のスケールにしています。
同じギバーでも下位と上位にいるのですね。
双方の違いは何か?
当然ながら本ではその答えを探究しています。

燃え尽きないギバーになるために

尽くすだけで燃え尽きてしまうギバーから、成功の階段の上位にいる(あるいは人生の満足度の高い)ギバーになるにはどうしたらいいのか?
アダム・グラントは、「他者の利益追求」と「自己の利益追求」の2軸で2種類のギバーを説明しています。
つまり、他者の利益ばかりを優先するギバーは燃え尽きてしまう一方で、自己の利益も同じぐらい追求するギバー(他者志向のギバー)は成功するというのです。
つまり他者とウィン・ウィンになること。
言われてみれば確かに当たり前ですが、実際のところはテイカーか燃え尽きるギバーを行ったり来たりしていることが多いのが現実ではないでしょうか。
お互いに心の余裕をもって生きるためのキーワードは「他者志向のギバーになる」。
もうすぐやってくる新しい年には、これを心がけたいなと思います。

(2021年12月19日 岩田)

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