近江商人の『三方よし』の教え

長期的視野からの解放

友人が2週間の海外一人旅を終えて帰国しました。
私は若い頃から、海外旅行の一人旅など怖くて考えもしなかったので、早速、興味津々で土産話をお聞きすることに。
観光や名所旧跡の感想以上に、新鮮で興味深く思えたことがありました。
真面目で真摯に生きている彼女は、日頃の学びの中で、「利他に生きる」「長期的視野」が人生の目的になっていた価値観の重圧からの解放を味わったと言われたことです。
確かに海外での一人旅は、自分の身を護ることや計画の遂行に意識を傾ける必要があって、いま・ここでの目的を果たすために集中することになるのでしょう。
常に問われる「自分はどう生きたいのか?」「どう生きるべきか?」という根本的な問いかけから解き放たれる瞬間も、本当に必要だなぁと思わされました。

旅の醍醐味

そこで浮かんだのは、まず、「郷(豪)に入っては郷に従え」ということわざです。
それは、その土地(又は社会集団一般)に入ったら、自分の価値観と異なっていても、その土地(集団)の慣習や風俗に順応した行動をとるべきだという意味です。
もう少し深めると、私達には社会・人類に共通の信念や慣習・ルールによって成り立った、集団を形成する共通認識や行動を決定する「集合意識」が存在します。
その集合的意識の上に、個人の潜在意識や顕在意識が重ねられることになるので、文化や価値観の違う土地では、マズローの「欲求五段階説」での「生理的欲求」「安全・安心欲求」が最優先に働きます。
自分の中に存在する、いろいろなパーソナリティーや思考・感情…を表して、総点検することも日常からの脱却として、旅の醍醐味のように思いました。

自利利他の精神

もう一つ浮かび上がってきたことがあります。
それは、「利他」と「利己」とは? ―ということです。
稲盛和夫さんが「人生で一番大事なもの。それは、浄土真宗で言う『自利利他』の精神」だと。
これは、目先の利益ではなく、利他を判断基準にすることを意味します。
私はいままで、「自利」と、自分中心の狭い視野での自分だけが良ければいいという考え方の「利己」を、あまり良い意味で解釈していなかったので、戸惑ってしまいました。
「利他」は「利己」の対義語ではないことを、初めて教えられました。
「自利利他」の対義語は「我利」と呼ばれるそうです。
きちんと腑に落とすために、具体的な例を考えてみました。
近江商人の「三方よし」の教えは、「売り手よし、買い手よし、世間よし」。
「売っている人も喜び、買っている人も喜び、社会貢献にもなる」――こういう商売を心掛けなさいと言われています。
「自利利他」の具体例です。
成功者の習慣を分析したビジネス書『七つの習慣』の中の、第4の習慣に「Win-Winを考える」(自分も相手もいい関係になる)。
これも「自利利他」。
そう思って更に調べてみると、松下幸之助氏のビジネス論、高島屋、ニューオータニなどの創業者の家訓など、立派な成功者が実践された同じような考えが沢山見受けられます。
蛇足になりますが、海外でも実践した成功者に、ウインドウズを作ったマイクロソフトでCEOを務められたスティーブ・バルマー氏は、「自利利他」の考え方に深く共感して、マイクロソフトの社員大会で、「自利利他の精神が大切だ」と語っています。
しかし、高邁な精神であるが故に、「利他」の生き方だけが大切だと強調されて最大目標になってしまうと、ももう一方の「自分」がないがしろにされて、息苦しくなってしまいます。
どちらか一方が大切だと切り離して強調するのではなく、自分が利益を得たいと思ってとる行動や行為が、同時に他人・相手側の利益にも繋がっているということが大事で、自分が儲かれば相手も儲かる。――それが真の商いだということ。
ビジネスだけでなく、人生訓として、常に相手にも利益が得られるように考えること。それが利他の心だというのです。
思いやりの心をもって事業や言動を行うと、自分も幸せな喜びがもたらされる。
「三方よし」「自利利他」の精神を、日常生活で自然に実践していけるように心がけて行ければ…と、素直に思うことが出来ました。

(2023年4月30日 若杉)

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