都市と人のレジリエンス
都市のレジリエンス
先日あるテレビ番組に、ベオグラードの現在の様子が映し出されていました。
見ながらしみじみと感じたのは、「人はどんなときも諦めず立ち直ってきたのだなぁ」ということです。
ベオグラードは旧ユーゴスラヴィアの首都で、現在はセルビア共和国の首都。
23年前コソボの紛争終結のため、NATOによる78日間の空爆があり、街は壊滅的な打撃を受けたといわれますが、旅番組の画面では緑豊かな川沿いの風景と、新しく建てられた美しい街並みが映し出されていました。
実際にはまだ深い爪痕が見た目にもわかるようなものがあるのかもしれません。
それでも壊れた街を再生し、その中で生活している市民の姿からは、人間のしなやかさのようなものを感じたのです。
苦難により落ち込み、悲嘆にくれた人々がそこから立ち直り、回復していくプロセスやその能力のことをレジリエンスと呼びます。
都市もまたレジリエンスを繰り返してきたのですね。
かつてローマ帝国の首都だったコンスタンティノープルも、1202年に第4回十字軍による破壊と略奪によって壊滅的な状態になったといわれます。
今、イスタンブールと呼ばれる同じ場所で人々は生の営みを続けています。
滅びてしまった場所もあるものの、復興しながら今に至っているところも多いのです。
人のレジリエンス
そうした都市の中に生きた人たちはどうだったのでしょうか?
ひとりひとりの心情まで知る由もありませんが、できれば、人の回復力の潜在的な力強さを信じたいものです。
最近出合った一冊の本は、その力強さを裏付けてくれるものでした。
『帰還兵の戦争が終わる時』(トム・ヴォス、レベッカ・アン・グエン著)です。
トムは2004年から「イラクの自由作戦」の支援部隊としてイラクの都市モスルに派遣された陸軍歩兵で、2006年に帰国。
実はアメリカでは多くの復員軍人が自ら命を絶っているのだそうですが、彼もまた帰国後その苦しみを味わいました。
そして数年後、癒しのためにアメリカを徒歩で横断するという計画を立てます。
2013年8月友人と共にミルウォーキーを出発。
約5ヵ月間かけて2700キロを歩き続け、カリフォルニアにたどり着いたのです。
では、この旅が彼を完全に癒したのかというと、答えはNOでした。
癒しはあったものの十分ではなく、自分を苦しめているものがまだ存在していました。
後にそれが言葉となって輪郭を現し、はじめて真の癒しへの道が開かれたのです。
PTSDではない傷もある
言葉になったそれは「モラルインジャリー(道徳的負傷)」。
善悪にゆるぎない信念を持っていながら、それに背く行為を実行、または目撃した時に生じるものだそうです。
悪夢やフラッシュバック、不眠などの生理学的反応の方が目立つPTSD(心的外傷後ストレス障害)との違いは、モラルインジャリーでは感情面、精神面などに症状が現れるといいます。
興味のある方は本でプロセスを確認していただければと思いますが、最終的に彼は癒され、安らかで自由な境地に至りました。
どうやってその境地に至ったのか、表紙の英語がヒントです。
「瞑想を通してPTSDとモラルインジャリーから回復した…」とあります。
そう、瞑想の力だったそうです。
モラルインジャリーは「魂の傷」だと著者は言います。
究極のレジリエンスとは魂が癒されることなのですね。
では魂の癒しとは何か…。
多分体験して初めてわかることでしょう。
私には未だ十分な体験がありません。
それでも今この時間、ウクライナのみならず世界中で苦しんでいる多くの人に魂の癒しが起こるよう、願うばかりです。
(2022年10月30日 岩田)