名もなき人々の貢献

春を告げる沈丁花の香り

マスク越しに、沈丁花の甘い香りがそこはかとなく漂ってきて、梅の花の満開を経て、もうすぐ桜の開花宣言が…と、希望の春がやってきました。
新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置を、21日の期限で全面解除されることが決まりました。感染状況は改善されているとは言え、リバウンドの警戒は続くと言う。
マスク着用が当たり前に定着していますが、今は昔の語り草になるのが待ち遠しいです。

ノートルダム大聖堂の火災

2月26日に放送された「世界ふしぎ発見!」―『パリ 進化し続ける芸術の都』―をご覧になった方もいらっしゃるかと思います。
私は飛行機が苦手なので、長時間フライトを必要とする海外にはあまり行きたいと思うことはありませんが、大自然や西欧の建築物・彫像にはとても関心があり、テレビ等で観るのは大好きです。
私が興味を魅かれたのは、テーマのひとつにあげられていた、世界遺産「ノートルダム大聖堂」の火災にまつわるお話です。
皆さんの記憶にも新しいことでしょうが、2019年4月15日、年間1200万人が訪問していた、フランスを代表する大聖堂の屋根の部分が炎に包まれて、高さ90メートルを超える尖塔が一気に崩れ落ちました。
ニュースの映像を通して、世界中の人々が息をのんだ衝撃的な出来事でした。
火災後、復旧を願って全世界から、8億ユーロ(約1000億円)もの寄付が申し出られたといいます。
ここで、「ノートルダム大聖堂」について、少し説明を加えますと。
「ノートルダム」とは、フランス語で「我らが貴婦人」すなわち「聖母マリア」を指します。
最終的な竣工は1345年で、全長128m、幅48m、高さ91m。
今回の火災の原因は、フランスのメディアによると、「現地で実施されていた改修工事による火災の可能性がある」と報じられていますが、思えば3年前の、沖縄の世界遺産「首里城」の火災も、「電気系統のトラブル」と言われたまま、どちらも正確には解明されていません。

復旧に名乗りを挙げた「国境なき大工」

中世に建てられた屋根の部分は、建設当時の記録がほとんどないので、どのように修復するかに困惑していたところ、火災後すぐに再建作業に名乗りを挙げた人達がいました。
彼らに付けられた名前は、「国境なき大工」たち。
1999年にノーベル平和賞を受賞した「国境なき医師団」(世界中で命を守るために活動する民間の非営利な人道援助団体)にちなんで、そのように呼ばれたのでしょう。
彼らは、「コンパニョナージュ」と呼ばれる、15世紀から始まるフランスの職人組織が元になっています。
世界中を旅しながら、各地の歴史建造物の造営や修復に参加して知識や技術を磨き、それらを後世に伝える役割があるといわれます。
「コンパニョナージュ」は、ユネスコの無形文化遺産にも登録されていますが、今回の復旧作業に彼らが参加を認められるためには、政府や建築家にデモンストレーションが必要となりました。
そこで、道具はほぼ中世のものを使用し、木材はフランスの森に多い「ナラの木」が使用されての精巧なデモンストレーションが、2020年9月に行われました。
これが功を奏して、実際の復旧作業に彼らの参加が決定し、復元プロジェクトに拍車がかかりました。
現在は修復の足場が組まれ、2024年のパリオリンピックでの公開を目指して、急ピッチで作業が進められているとのこと。
自分の持っている知識や技術が生かされて、しかも歴史的な文化遺産の建造や再建に誇りを持って携わることができるのは、本当に遣り甲斐のあることでしょう。
同じような志を持つ仲間がいて、切磋琢磨しながら技術を磨き合い、伝統として後世に伝えていく…そう考えただけで、「国境なき大工」の存在自体が、何と素晴らしいことかと深く心を揺さぶられました。
世の中には、人知れず利他の精神で貢献している、名もなき人々が各地・各所で存在しているのを知り、とても豊かで嬉しい気持ちになりました。
私には、お役に立てる知識も技術も持ち合わせていませんが、だからと言って諦めずに、西川きよしさんではありませんが、「小さなことからコツコツ」と、日常の中で大事だと思うことに取り組んで行きたいと思います。

(2022年3月20日 若杉)

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