ドーパミンという天使と悪魔

ドーパミンの働き

普段私達は、自分の生活習慣や嗜好傾向、長所や短所など、あまり意識を傾けることもなく過ごしがちです。
コロナ禍で、外出や人と出会うことを制限されている昨今、毎日のルーティンや心の動き・傾向などに自ずと意識が向いてきます。
そんな折、友人の勧めで、「ヒューマニエンス『快楽』――ドーパミンという天使と悪魔――」というテレビ番組を観ました。
心理学を学んできた私は、「ドーパミンは、中枢神経に存在する50種類以上ある神経伝達物質の一つで、運動調整、ホルモン調整、快の感情、意欲、学習などに関わること。
脳の側坐核から出る、気持ちを興奮させたり緊張させたりする神経伝達物質」というような知識は持っていました。
側坐核は、「作業興奮」をもたらすので、やる気がない時でもやり始めると、いつの間にかやる気が出てくるという働きがあります。
この番組では『快楽』に焦点を当てて、「快楽物質」と言われるドーパミンを探求しようというもので、しかも「天使と悪魔」の両面からということに、とても興味を持ちました。
「ゲームなど、楽しくて止められない。」「洋服や食料など、ついつい買い過ぎてしまう。」「太ると分かっていても食べ過ぎる。」…など、私達がこうした欲望や行動に取りつかれるのは、脳の中に作られる「ドーパミン」によるという。
特別にそのドーパミンの刺激が強過ぎると、「依存症」と呼ばれる症状になり、そのことにとても意味があると勝手に勘違いしてしまう…と、京都大学の後藤教授は指摘されています。
では、何故私達はそんな危険な物質を持っているのでしょうか?
最新の研究で浮かび上がってきたのは、「快楽」とは無縁に思える意外なこと。

快楽は学習のため

学習しなくてはいけないというシグナルとして、私達に快楽をもたらしているのではないか、快楽は食料を確実に得るための学習…という事実が明らかになりました。
ドーパミンによって、食べることが快楽だとされて、生きることが出来ているというのです。
これは、人間だけでなく、生物全般に共通しています。
人間は、何かを達成することでドーパミンを増やすので快感を覚えます。そしてその快感をまた味わうために、更に達成しようとします。それが学習能力と言われます。

快楽が人々をつないでくれている

更に、私達が「他人を思いやる心」もドーパミンが作るという。
例えば、「普遍的な人類愛」とか「社会的な他者への振る舞い」「他人の心を読み取る能力の発達」とかも、ドーパミンの学習効果ではないか、すなわち「ドーパミンは生きるためのシグナル」と言っても、過言ではないようです。
他人との違いを比較し、他人の気持ちを想像(共感性)することも、また我慢することも、ドーパミンの働きである快楽が支えているようです。
興味深いことに、ポジティブなことに対してもネガティブなことでも、とにかく予測出来ない驚きがあれば、ドーパミンは出ると言われます。
例えば、ジェットコースターに乗るとか、お化け屋敷に入った時でもドーパミンは出るとのことで、これが、何らかの学習を生んで、開拓精神につながったのかも知れないとも。
ドーパミンは認知機能に大きく関わっていますので、不足すると物覚えが悪くなるなどのデメリットがあります。
やる気や活気も無くなって、イライラすることもあります。
このように、ドーパミンは多すぎても少なすぎてもいけないようです。
うつ病とか精神疾患の治療にドーパミンがとても重要で、快楽がでるかどうかまたその程度で、人は調子を整えたり崩したりします。

快楽と報酬

大脳辺縁系の中でも重要な「報酬系」にも信号を送っているので、いわゆるご褒美がもたらされます。
やる気がもたらされると、これから行動することが良いことでも悪いことでも「報酬」を予測してドーパミンを増やすことになります。
子どもが、家の手伝いをすればお菓子やお小遣いをあげると言われてやる気を出す。
誰かに褒められたり認められたりした時、更に、楽しいことを考えただけでもドーパミンは出てきます。
何気ない日常生活の中でも、お腹が空いた時に食べるご飯はとても美味しく幸せな気分にしてくれるし、女性がスイーツを食べる時のあの幸せな表情、好きなことに没頭している時にも「幸せホルモン」「快楽ホルモン」と呼ばれるドーパミンは出てきます。
適度のドーパミンは、集中力がアップして作業効率が上がり、ストレスが軽減して、疲れにくくなる。そしてポジティブで意欲的になる。
ドーパミンの悪魔の働きを理解した上で、天使の役割を活かして、楽しく活気のある日々を送りたいものですね。

(2021年9月19日 若杉)

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