時間どろぼう

ミヒャエル・エンデの『モモ』と新型コロナ後の世界

緊急事態宣言も39県で解除となり、これから「新しい生活」が始まることになりますが、「新しい生活」がどんなものなのかまだおぼろげな形しか見えません。
これからみんなが体験していく未知の世界ですね。

さて、ミヒャエル・エンデの名作『モモ』をご存じでしょうか。
発表されたのは1973年なんだそうです。
物語はどこから来たかわからないけれど円形劇場の廃墟に住みつき、人々の話を聴き、悩みを解消させる力をもった不思議な少女が主人公です。
かつて「聴く」をテーマにこのお話を取り上げたことがありましたが、実はこの本の重要なテーマは「時間」です。
「時間」といえば、この状況の中でずっとお仕事をされている方々には本当に頭が下がりますが、自粛生活を通して今までにない「時間」を手にされた方も多いでしょう。
私もそのひとりです。
多少の仕事はあれど、昨年のように日々どこかに出かけるような生活は今年に入ってからどんどん減っていきました。
2月、3月とその状態が加速し、緊急事態宣言が発表されてからはほとんど家に閉じこもっている状況です。
で、つくづく思ったことは、これまで自分で時間を管理しているように錯覚していただけだったということです。
行かなくてはならない約束があり、期限があるから仕事をしていただけでした。
少し時間に余裕ができて今日すぐにしなくても困らない状況だと、とたんにその仕事を放り出し、好きなことで気を紛らわせようとする自分に何度も気づきました。
気づいたなら止めればいいのですが、これまで歯止めになっていた約束やら締め切りやらがないと、気持ちは好きなことの方に傾きます。
結局何時間も好きなことをして過ごし、それなりの満足感はあるものの、「今日一日何してたの?」と自分を責めるような自問ももれなくついてきて、ほろ苦く一日を終えるという繰り返し…。
ほんと自分の意思なんて弱いものだと痛感しました、いえ今も痛感中です。

時間どろぼうのやり方が変わる?

さて、『モモ』の中には、「灰色の男たち」というのが登場します。
とにかく忙しくさせて世界中の余分な「時間」を独占しようとするのです。
人々はゆとりをなくし、とりとめなくお喋りしたり、生活を楽しむことを止めてしまいました。
そこでモモの活躍となるわけですが、良かったら物語を読んでみてください。
まず「灰色の男たち」が「時間」をとりこむことで、人々は仕事に追われ、精神的に追い詰められていきます。
これってコロナの前と後に分けると、まさにコロナ前の世界ですよね。
蝶の成長に例えればイモムシの状態でしょうか。
そうすると自粛期間というのはサナギの状態で、羽化し蝶になって羽ばたくのがコロナ後になります。
「新しい生活」では、これまで時間どろぼうによって奪われていた時間が少なくとも一部は取り戻されていることでしょう。
が、それはそれで大変なことだと思います。
誰かに強制されて時間がないと言っているうちは、誰かのせいにしたらいいわけですが、時間があるにもかかわらず、本当に大事なことができないとすれば、それはすべて自分の責任。
気を紛らわせることも大事ですがそればかりではどこか満足しない自分がいることもわかっています。
時間どろぼうは、今度はあり余る時間を無駄に使わせるよう働きかけているのではないかと、わが身をふり返って感じます。
自分の意思で「時間」をどう使うのか大きな課題で、私も答えを探すためにあがいています。

(2020年5月17日 岩田)

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