本当の自分・演じている自分?

本当の自分とは一体何だろう?

随分前に「本当の自分探し」「個性豊かな自分になる」……ということが、ブームになったことがあります。
チルチル・ミチルの「幸せの青い鳥探し」の結末のように、どこまで旅をしても、どんなに願っても、実体が無いものは得ることができません。
では、「本当の自分」とは一体何だろう?私はずっと疑問に思って来ました。
そのことを考えてみたいと思います。

今まで、多くの方にカウンセリングをさせていただいた中で、ご自分を肯定できずに、むしろこんな自分は嫌いだとおっしゃる方があまりにも多かったのです。
勿論、困難な問題を抱え、人間関係に悩まれている方だからこそ、カウンセリングの場でお出会いしたのですが。
日常生活に疲弊して、エネルギー不足になると、誰しも自己否定をしたくなります。
何をするにも自信がなくなり、虚無感にさいなまれて、自分も人も信じられなくなって落ち込みます。
ただただずーっとお話を聞いて聴いて…、ラポール(信頼関係)が築けた上で、敢えて「おっしゃる通り、本当に大変ですね。出口もきっかけも見つかりませんし、先行き何の希望もないし、どうしようもないですね。」と、陰惨な顔をして、極端にマイナスの言葉を掛けることがあります。
そうすると、「そこまでひどくはありません。」「これでもいい時もあったんですよ。」とか…、ご自分や人生を肯定する言葉が出されてきます。
心の中に溜め込んだモヤモヤ、いら立ち…を、自分の中から表に吐き出して、こんな自分が居ることを話題にして、弱い存在を認めたかったのです。
一人の心の中には、いろんな自分が存在します。そのことは日常生活の中で、私たちはよく知っています。

『私とは何か』

先日の「質疑応答セミナー」で、赤木講師から『私とは何か――「個人」から「分人」へ――』という新書を紹介されました。
著者は、小説家の平野啓一郎氏です。

10月13日の「若杉のブログ」で、多重人格をテーマに取り上げました。
「解離性同一障害」と呼ばれる精神病のことです。多重人格には、「主人格」と「交代人格」があるとお伝えしました。
あまりに苦しい過去の体験、虐待などから逃避するために、極端に多人格が表れて統合できないと、このような症状に陥ります。
が、平野氏は著書の中で、普通に私達が生きる上で、「たったひとつの本当の自分など存在しない。」。
人間関係に悩むのは、「唯一無二の本当の自分」という考え方がすべての間違いの元だと断言されています。
更に、裏返して言うならば、「対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて『本当の自分』である。」と。
一人の人間は、複数の分人(平野氏の表現で、対人関係ごとの様々な自分のこと)からなる、ネットワークであり、そこには「本当の自分」という中心はない。――と書かれています。
さすがに言葉のプロが、ご自身の体験から具体例を挙げて語られることは、とても説得力があります。

人格の統合体験

先日のセミナーでの始まりの「チェックイン」で、私は、「台風だけでなく、ちょっと強い風雨にも身体が敏感に反応して、集中力を失う」ことを話しました。
その日も少し風が強めで、窓がコツコツと音を立てていたのです。
弱くてコントロールできない、情けない自分を、許される場で吐露させていただきました。
講師を初め参加者の皆さんが、温かく受け入れてくださいました。
弱い私の分人が存在を明らかにして、その場に居ることを認められた気がしました。
すると、ビクビク・ドキドキしていた感覚が和らぎ、心がどっしりと落ち着いてセミナーに集中することができたのです。
新鮮な体験でした。
いろいろな人格を統合して、学ぼうとする分人が現れたのです。
どれも大切な私でした。
私も僭越ながら、心理学やカウンセリングに関わる中で、書物や事例からも、人格はひとつではなく多数あることはすでに気づき知っていたことで、新しい驚きではありませんでしたが、明確に整理されてより確信が湧きました。
人間関係に悩んで、自分が好きになれない人、自分の人生に希望が見い出せずに苦しむ人が居れば、この本を紹介したいと思います。
複数いる自分の分人を知り、好きな分人を足場に、豊かな人生を歩んで行きたいものです。

(2019年12月8日 若杉)

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