成毛眞『この自伝・評伝がすごい』
推薦本20冊をどう読み解くのかという面白さ
人に興味があるので、どうしてもノンフィクション的なものを読むことが多くなります。
これは、書名のように本を紹介している本です。
著者は元マイクロソフト社長で、現在書評サイトHONZの代表。
このサイトも本好きにはたまりません。
で、この本は20人にスポットが当たっています。
正確には20人についての評伝などを推薦本として取り上げています。
例えば、クロネコヤマトの宅急便の生みの親、小倉昌男、
青色発光ダイオード開発者の中村修二、
サッカーの岡崎慎司、
政治家、田中角栄、
江戸幕府260年の安寧をもたらした保科正之など。
上の人選を見てもわかるように、見事にバラバラです。
また、自叙伝、評伝、小説、礼賛本までジャンルも脈絡がない。
それに対して著者は言います。
「私はこの脈絡のなさが大事だと思っている。
何の脈絡もないのが人生ではないだろうか。
明日、隣に引っ越してくる人が、チャーチルのような貴族かもしれない。
ビル・ゲイツの面接試験ではないが、我々は想定外に対しての免疫をつけておかなければならないのである。」
(「おわりに」より抜粋)
なるほど、確かに…
「美談を急ぐと本質を見失う」
ネットで情報が拡散する時代を迎えて久しくなります。
ある人を評するときに、多面的に見る時間と心の余裕がないまま、その人を良い人か悪い人かという二択で判断し、安心している私たちがいるのではないでしょうか。
少しでも共感できる部分や良い話だと思われたら、簡単に美談にしてしまいがちです。
事情を掘り下げ、その人のことを深く知ったなら、良いところもあれば共感できないところもあるという事実に気づきます。
「美談を急ぐと本質を見失う」という言葉は、同じく「おわりに」に書かれていました。
名言ではないでしょうか。
この本は、それぞれの推薦本を手放しに良いと評価するのではなく、著者である成毛さん自身が、その本から何を受け取り、どう考えたのかが書かれたものです。
私の場合、活字にされたものに弱く、少しでも納得できる部分があると、それを鵜呑みにしがちな傾向があると自認しています。
この本を読み、この本自体に対して、自分は何を受け取ったのか、どう感じたのかを少し冷静に確認してみようと思いました。
本に限らず、目の前のことと自分自身との距離を測りながらある程度客観的になることは重要ですね。
(2017年7月11日 岩田)