聴き方のレッスン(8)先入観を横におく
第一印象のインパクト
最近、『和菓子のアン』(坂本司著)という本を読みました。
舞台は、デパ地下の和菓子売り場。
18歳太め女子の主人公が和菓子の奥深さを知っていくというストーリーです。
その中の「萩と牡丹」と名づけられた章で、ある男性客が登場するのですが、ちょっと引用してみます。
「おい、姉ちゃん」
背中を向けていたときにいきなり声をかけられて、私は振り返る。
「はい、いらっしゃいませ」
反射的に頭を下げ、お客さんの顔をみた。
そして、見た瞬間、硬直した。
年の頃は50代から60代。
髪の毛は坊主一歩手前の短さで刈ってあり、ここは地下だというのにサングラスをかけている。
さらに丸首のセーターの前面には虎が吠え、竜が火を吐いていた。
どんな人かイメージしやすいですね。
目の前にその人がいたら、思わず緊張して身構えてしまいそうです。
第一印象というのはそのぐらい影響力があります。
なにしろ私たちは、特に初対面の人に対してどう接したら自分を守れるのかを無意識に測っているのですから。
不用意な態度で相手から嫌われたり、攻撃をうけたら大変です。
その印象は、これまでの経験からの判断とセットになって、相手に対する先入観となります。
「こういう風貌の人は気をつけなければいけない人だ」
「この笑顔だったら、少し心を許せそうかな…」など。
一旦できた先入観は意外に根強いものではないでしょうか?
会話の最初の方では、特にその影響が強くなります。
先入観は捨てなくてもいい?
小説の「恐い人」は、2回目の来店のあと、素性が明らかになります。
結局は恐い人ではありませんでした。
事情がわかると、先入観は新たな印象へと変わります。
近づきがたいと感じていた人、恐そうだった人が、実は優しかったなどという時は、印象のメーターが一気に逆にふれることもあります。
それでも、私たちは「やっぱり、私が思った通りの人だった」という結末を望んでいるのかもしれません。
自分が正しかったと思えるのは心地良いからです。
だから先入観を捨てて、白紙の状態で相手を理解しようとするのは結構難しいことです。
そんな時、ちょっと横においてみるというのはどうでしょうか?
相手から受けた印象から何らかの先入観が生まれていることに気づいたら、それを無理やり外さなくてはいけないと思わずに、そのままにして、少し相手の話を聴いてみようという要領です。
コーチングでは、白紙の状態で相手の話を聴くことが望ましいといわれます。
現実的には、まったく白紙というのは難しいことです。
「先入観を横におく」ぐらいだと、私にとっては平静な気持ちになりやすいかな、と思っています。
(2017年6月10日 岩田)