小阪裕司『冒険の作法』

日常の中に冒険がある
どの人生も冒険というのが、この本の前提です。
冒険なんていうと、ヒマラヤの頂上や極点を目指すとか、わかりやすいイメージを抱きがちです。
また、多くの物語のヒーローはどこか遠くまで出かけて行って、試練に打ち勝って帰ってきます。
ここで、小阪さんの言葉を引用すると、
たとえば物語は、「宇宙の冒険」の姿を借りて大切なことを私たちに語りかけてくる。
そこで大事なことはその物語そのものである「宇宙の冒険」の方ではなくて、「語りかけている大切なこと」の方なのですが、どうしても「宇宙の冒険」の方に目が行ってしまう。
そしてそんなことを繰り返しているうちに「宇宙の冒険」こそが冒険だという感覚になってしまうわけです。
だから、「宇宙へ行かないと冒険じゃない」というような感覚になってしまうのです。
しかし「冒険」はどこにいてもできます。
冒険とはヒーローズジャーニーを生きること
「ヒーローズジャーニー」というモデルは、アメリカの神話学者ジョセフ・キャンベルが提唱したものです。
世界の神話を研究したキャンベルは「神話は荒唐無稽なものではなく、深い意味があり、現代に生きることに大いに意味がある」という言葉を残しています。
映画「スターウォーズ」も、このモデルに着想を得たといわれていますね。
そのステップは以下の8つです。
- Calling(天命)
- Commitment(旅の始まり)
- Threshold(境界線)
- Guardians(メンター)
- Demon(悪魔)
- Transformation(変容)
- Complete the task(課題完了)
- Return home(故郷へ帰る)
かつて、映画「ロード・オブ・ザ・リング」の原作である『指輪物語』を一気に読み進めたことがあります。
ハラハラするような物語が苦手なのにもかかわらず、読み始めたら主人公フロドの旅の行方を最後まで見届けざるを得なくなりました。
途中かなりツラかったので、最後に彼が使命を成就した時には心底ホッとしたものです。
(その後故郷に帰った主人公についても思うところがあったのですが、それは原作を読んでみてください)
ちょっと大げさですが、ふり返ってみると私にとってはこの長い物語を読むことも小さな冒険でした。
まずは苦手な物語を読むことを決めたことで旅が始まりました。
ツラい気持ちを味わいながら、試練を意味する「悪魔」と対峙し、読み終えるという課題を完了しました。
小阪さんが言われるように冒険は常に日常の中にあるのですね。
冒険はいつも三部作
この「旅立ち」「試練」「帰還」という3つのブロックが冒険には不可欠だと本の中に書かれています。
中でも大切なのは「旅立ち」でしょう。
何しろ旅立たなくてはどこにも行けません。
しかし、時に予想もしないところから旅に誘われることもあります。
突然昨日までの日常と切り離されて、新しいことに直面しなくてはならなくなったというような場合です。
仕事でのトラブル、病気、人間関係のひずみ、など…
不本意なものも少なくないでしょう。
というよりはほとんで不本意かもしれません。
それが冒険への旅立ちを意味するかどうかなんて考える余裕もなく、翻弄されてしまいそうです。
そんな時できごとのとらえ方を変えるのは、「知っているか知らないか」ということが大きいように思います。
冒険の旅のプロセスを知っている人は、その出来事が旅のはじまりであると理解する可能性が生まれるということです。
理解した方が出発しやすいかどうか…それは何とも言えません。
ただ理解して進むとすれば、しかるべき準備ができますし、その足取りはかなりしっかりとしたものになりそうです。
もちろんわからずにとにかく進む、進んでいくうちに理解していくということも多いとは思いますが…。
小阪さんが語るヒーローズジャーニーは、誰もが冒険の旅を理解できるような親切さに満ちています。
「知ることがすべてのはじまり」
神話の中に秘められた生き方の智慧を、自分のレベルで生きるためのガイドブックです。
(この書籍自体は手に入りにくくなっているようです。興味がある方は図書館などで探してみてください)
(2017年9月26日 岩田)