喜多川泰『秘密結社Ladybirdと僕の6日間』

18歳の少年が出会ったのは、映画で見た大人たち

学習塾を運営されながら、10年以上作家として活躍中の喜多川泰さんの最新刊です。

あらすじは…

主人公の颯汰(そうた)は、勉強もスポーツも中途半端で投げ出し、ダラダラした夏休みを過ごしている高3の受験生。
ある日昼食をとるために、駅前の商店街に向かう途中で息苦しくなって、気を失った。
気づくと、ジャズが流れる薄暗い店の中に寝かされていて、そこが父親のお気に入りの映画『Ladybird』に登場するバーだと知る。
しかも、映画の登場人物と全く同じ人たちがそこにいた。
彼らは高校時代に、「秘密結社」をつくっていた7人のうちの6人だった。

6人の大人たちは、年齢は同じでも、仕事はバラバラ。
女優、小説家、銀行の支店長、ファッションブランドのオーナー、建築事務所社長、書店主で本のソムリエ。
彼らが今それぞれの道を歩んでいるのは、今はいないもうひとりのメンバーのおかげだという。

物語は「秘密結社」がどのような思いで作られ、メンバーがどのように成長していったかを知ることで、颯汰自身が成長していくという展開になっている。

心の天秤

喜多川さんの小説の主人公に高校生が多いのは、ご自身が直接その世代の人たちと接しているからでしょう。
そこには、未来に向かって歩きだそうとしている彼らの背中を優しく押すようなメッセージが込められています。

物語の後半、颯汰は、秘密結社を呼び掛けたメンバー、二階堂肇の中学生の時の言葉を目にします。
「僕は努力をする。だからそれにふさわしいものを与えてください」
人の心の中には天秤があるという話です。
「手に入れたいもの」を片方の皿にのせ、もう一方の皿は「努力」を重ねる毎に重くなる。
両者が釣り合った時に手に入れたいものが実際に自分のものになる。
すると、その素晴らしさを心から楽しむことができる…。

当たり前の話ですが、私たちはとかく少ない努力で、目標に到達したいと思いがちではないでしょうか。
私も、時々棚からぼた餅のような幸運を期待している自分を見つけます。
が、実力以上の幸運はむしろ恐れるべきものかもしれません。

天秤という例えはイメージしやすいです。

秘密結社の本質とは

グループで何かをするということは心強いものです。
ひとりではできないことも力を合わせることで、成し遂げられることがあるでしょう。
一方で、安易にそのグループに依存してしまうという危険性もあります。
最強のグループとは、ひとりひとりが十分に自立した上で、協力ができる関係です。

さらに、「秘密結社Ladybirdを提案した肇のビジョンには、ひとりひとりが十分に力をつけて自立した後のことまでが含まれていました。
それは私たちが生きることの本質につながること…。
続きは、ぜひ実際に読んでみてください。

(2017年5月2日 岩田)

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